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トリチウム汚染水の海洋放出 —– 風評被害ではなく実害が起こる —-

2021年2月23日 なごや国際オーガニック映画祭では「遺伝子組換えルーレット~私たちの命のギャンブル」をウィルあいち(名古屋市東区)上映、

同時に河田昌東さんの講演会「新たな遺伝子操作・ゲノム操作技術って何?」も開催予定です。

河田昌東様がチェルノブイリ救援・中部の機関誌「ポレーシェ」に「トリチウム汚染水の海洋放出— 風評被害ではなく実害が起こる」(2020 年3 月25 日付)を記されていま
す。
http://www.chernobyl-chubu-jp.org/_src/sc2216/kawata-128.pdf

河田昌東(まさはる)=分子生物学者、遺伝子組換え食品を考える中部の会代表、四日市公害・チェルノブイリや福島の原発事故被災地の支援など多くの社会運動に関わる。著書(共著を含む)「遺伝子組換えナタネ汚染」「チェルノブイリの菜の花畑より」「チェルノブイリと福島」他。名古屋市在住。

128 (改)         トリチウム汚染水の海洋放出

—– 風評被害ではなく実害が起こる —-

 

10年目を迎えた福島第一原発事故はいよいよ汚染水対策を迫られる。東電は3月24日、汚染水の海洋放出について拡散範囲の予測を発表した。ALPS(多核種除去装置)で除去できないトリチウムを含む汚染水は現在120万トン溜まっている。この中のトリチウムの総量は860兆ベクレル(8.6×10の14乗Bq)。通常の沸騰水型原発が作り出すトリチウムの約43年分に相当する。これを東電の排水基準(1500Bq/l)にするには5.7億トンに希釈する必要がある。この汚染水を毎日86,400万トン(毎秒60トン)、18年間流し続けなければならない。これで問題が起きないのか。

 

 

切羽詰まった国の決定

東電の報告は経産省の多核種除去設備等処理水の取り扱いに関する小委員会(通称ALPS小委員会)の2月10日の決定に基づくものである。汚染水の処理対策を迫られた同小委員会は2月10日、汚染水対策として「海洋放出が現実的な選択肢」との結論を出した。陸上保管などの案もあったが同委員会は「自然災害や腐食、操作ミスなどにより外部に漏れるおそれ」を指摘して海洋放出が現実的、と決めた。意図して流すのと事故で漏れるのと何処が違うのか。事故では高濃度で漏れるが希釈して流せば安全、という論理だろう。専門家と称する原子力村の住民はトリチウムのベータ線エネルギーが小さく、また水として体内に入ってもすぐに出ていくので影響ない、という。その結果トリチウム水海洋放出の最大の問題は「漁業への風評被害」だという。風評なら世論操作で何とかなる、という判断だ。漁業者たちも風評被害が怖いと言う。この考えは間違っている。

 

トリチウムはDNAを破壊する

トリチウムは水素の同位体で化学的には水素と区別がつかない。そのためトリチウム水が生物体内に入ると生化学反応によりトリチウムは細部内の分子の炭素や酸素、窒素、リン等と結合して蛋白質やDNA、RNA等生体分子の一部として取り込まれる。これをオーガニック・バウンド・トリチウムOBTという。筆者は現役時代、トリチウム水で大腸菌や酵母菌を培養してトリチウムDNAやRNA、蛋白質を作り分析した経験がある。生物学者なら常識だ。細胞内でトリチウムはベータ線を放出しながら崩壊する。半減期は約12年。その間、周囲の細胞は被曝する。如何にエネルギーが小さかろうと細胞内で出る放射線は全て内部被曝の原因になる。だが更に大きな問題はトリチウムの崩壊で起こるDNAの物理的破壊だ。DNAを構成する炭素や酸素、窒素、リン等に結合しているトリチウムは崩壊してヘリウムになる。ヘリウムは安定元素で他の元素と化学結合出来ない。その結果トリチウムがヘリウムになった途端、相手の元素(炭素、窒素酸素、リン)との結合が切れ、分子が不安定になり炭素や窒素、酸素等の元素間結合が切れDNAが壊れる。OBTの崩壊による生物影響については沢山の論文がある。DNA構成要素の一つチミジン(T)中のトリチウムは37Bq/ml位の濃度から染色体異常が起こるという研究もある。また、トリチウムを含む分子を胎盤は区別できないため母親の体内のトリチウムは胎児に取り込まれる。その結果、先天異常や死産、流産の増加が起こったという事例もある。アメリカのローレンス・リバモア国立核研究所のT.ストラウス等の研究ではトリチウムによる催奇形性の確率は致死性がンの確率の6倍という。トリチウムの多いカナダの重水原子炉の廃水が流入するオンタリオ湖周辺には先天異常や流産死産が多い事で知られる。トリチウムの海洋放出は決して風評被害では終わらない。実害が起こってからでは遅いのだ。(2020年3月25日 河田)

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